相続した不動産を売却する際の注意点とは?発生する税金
相続した不動産を売却する際には、通常の不動産売却とは異なる手続きや注意点が多く存在します。特に相続登記を済ませておかないと売却ができないため、早めの対応が求められるのです。
また、売却時には譲渡所得税や印紙税などの税金が発生するため、税額計算や控除の確認もしておく必要があります。節税のための特例も適用される場合がありますが、これらには期限があるため、タイミングを見極めて売却することが大切です。
目次
相続した不動産を売却する流れとは?
相続不動産の売却は通常より手続きが多いため、あらかじめ流れを知っておくと手続きがスムーズにできます。
◇1.相続の発生
相続は被相続人の死亡により始まりますが、すぐに相続財産の分割について話し合うわけではありません。まずは葬儀を行い、一般的には四十九日法要が終わってから相続の話し合いが始まることが多いです。
◇2.遺産分割協議
相続が発生したら、まず遺言書の有無を確認します。遺言書があればその内容に従って相続が行われ、ない場合は遺産が法定相続人全員の共有財産となります。被相続人が遺言書を残していれば、原則、その遺言書の内容にしたがった相続しますが、遺言書は勝手に開封すると無効になるため注意が必要です。
遺言書がなければ四十九日法要後に遺産分割協議を開始し、相続人全員が話し合って財産の分け方を決め、協議で全員が合意すれば、遺言書や法定相続分と異なる分割も有効となります。
◇3.法務局への相続登記
不動産を相続した場合は相続登記申請を行い、名義を亡くなった人から相続人へ変更します。これを行わないと、不動産を売却できません。
登記手続きは司法書士に依頼して進めるのが一般的です。
◇4.不動産会社への依頼
相続不動産を売却する際は、不動産業者に仲介を依頼し、媒介契約を結びます。媒介契約には「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3種類があり、それぞれに売却方法が異なるため、相続人の状況に合わせて選ぶとよいでしょう。
◇5.物件の調査
売却価格を決めるために物件調査をしなければいけません。調査には現地調査、法務局調査、役所調査、近隣の市場調査が含まれ、不動産の種別、面積、築年数、使用状況などを確認し、適正な売却価格を決定します。
◇6.買主との売買契約を締結
買い手が見つかれば、売買契約を締結します。当日の流れは、①売主と買主の顔合わせ、②不動産の説明、③契約書の確認・押印、④手付金の受取りです。取引は大きな金額が関わるため、疑問点はその場で必ず確認し、後のトラブルを防ぐことが重要となります。
◇7.決済・引き渡し
物件を引渡し、売却代金を受け取れば、相続不動産の売却は完了です。複数の相続人がいる場合、費用を差し引いた残額を遺産分割協議の割合で分けます。
相続した不動産を売却する際にかかる税金
画像出典:フォトAC
相続した不動産を売却する際には、税金が必要です。
◇印紙税
印紙税は、契約書や領収書などに関連する税金で、収入印紙を貼付して納税します。不動産売却では、不動産売買契約書作成時にかかる税金で、契約金額に応じて額が変わり、貼り忘れると脱税とみなされる可能性があるため注意しなければいけません。
印紙税の税額は、不動産売買契約書の場合、契約金額が1,000万円を超え5,000万円以下であれば税額は1万円です。5,000万円を超え1億円以下なら税額は3万円で、契約金額が大きくなるほど印紙税も高くなります。印紙税は、郵便局や法務局、コンビニなどで購入した印紙を契約書に貼り、消印することで納税が可能です。
出典元:国税庁 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
◇譲渡所得税及び住民税
不動産売却で利益が出た場合、その利益に対して所得税と住民税が課される税金で、原則として不動産の売却価格が購入価格を上回った場合に発生します。譲渡所得税は、「売却金額」から」「取得費」、「譲渡費用」、そして「特別控除額」を差し引いて利益を計算します。
売却金額は不動産売買契約書の売買代金ですが、買主から支払われる未経過固定資産税・都市計画税の精算金も含めた金額です。相続した不動産の取得費は、購入時に支払った金額や相続時の登記費用を含み、建物は減価償却費を差し引きます。仮に取得費が不明な場合は、収入金額の5%を取得費とすることも可能です。相続税の申告期限後3年以内に売却すれば、相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。
譲渡費用は、不動産売却にかかった仲介手数料や測量費などの直接的な費用ですが、修理費や維持管理費は含まれません。そして、特別控除額は、不動産売却時に一定条件を満たすと差し引かれる控除です。譲渡所得税の税率は、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下は「短期譲渡所得」の税率が適用され、相続不動産では、被相続人が取得した日から所有期間を計算します。
相続した不動産を売却するメリット
相続した土地を売却する際には譲渡所得税がかかりますが、「取得費加算の特例」や「空き家の3,000万円控除」などの節税特例が利用できます。これらは相続開始から一定期間内に売却する必要があるため、早めの売却が推奨されています。
◇トラブルを防げる
相続した不動産を放置すると、屋根や外壁が劣化し、倒壊や庭木の越境、不法投棄などのトラブルも考えられ、場合によっては損害賠償を求められることもあるかもしれません。特に遠方の物件は管理が難しく、トラブル防止になります。
◇平等分配ができる
不動産は現金と異なり平等に分割できないため、相続人が複数いる場合はトラブルが起こりやすいいため、不動産を売却し、得た利益を分割する「換価分割」が平等でトラブルを防ぎやすい方法です。
◇維持費がかからない
相続した不動産を放置すると、固定資産税や管理費などの維持費がかかり、空き家対策特別措置法により「特定空家」に指定されるリスクもあります。特定空家に指定されると固定資産税の優遇がなくなり、罰金や行政処分の可能性もあるため注意が必要です。
また、戸建ては定期的なメンテナンスが必要で、マンションなら管理費や修繕積立金の負担も発生しますが、売却することでこれらの維持費を抑えられます。
◇維持管理の手間がかからない
空き家でも定期的なメンテナンスや庭の手入れが必要になりますが、家の売却をすれば、こうした手間や費用負担を避けられます。
相続した不動産を売却する際の注意点
相続した不動産の売却は通常の売却と異なり、注意が必要です。
◇相続登記を必ず行う
相続した不動産を売却する際、所有権移転登記の前に相続登記が必須です。また、売却予定がなくても相続登記は早めにしておかないと、将来的に相続する際に権利関係が複雑化します。さらに、2024年4月から相続登記が義務化され、相続後3年以内に登記を行わないと、10万円以下の過料が科されるため相続登記は必ず行うことが重要です。
出典元:法務省
◇3年以内を目安に売却する
相続税の取得費加算の特例や相続空き家の3,000万円特別控除には、適用期限があります。
「取得費加算の特例」は、相続開始の日から3年10カ月以内に売却する必要があり、「空き家の3,000万円特別控除」は相続開始の日から3年を経過する年の12月31日までに売却しなければなりません。
出典元:国税庁 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
◇買取も検討する
相続で多額の相続税が発生し、不動産の売却代金で充当する場合、申告・納付期限の10カ月以内に売却する必要があります。しかし、売却の準備が遅れたり、思うように買い手が見つからなかったりすることも少なくありません。
そんな場合には、不動産会社に直接買い取ってもらう「買取」を検討すると良いでしょう。買取は価格が低めになるものの、早ければ1週間程度で現金化できます。
相続不動産の売却は通常よりも手続きが多く、事前に流れを把握しておくことでスムーズに進められます。まず、相続が発生すると、遺言書の有無を確認し、遺産分割協議を行います。その後、不動産の相続登記を行い、名義変更を完了させなければなりません。
登記が完了したら、不動産会社に売却の仲介を依頼し、物件調査を経て売却価格を決定します。売買契約が締結され、決済と引き渡しが完了すれば、相続不動産の売却は完了です。相続不動産の売却には印紙税や譲渡所得税がかかりますが、取得費加算の特例や空き家の3,000万円控除などの節税特例が利用可能です。
相続不動産を売却することで、管理や維持費の負担が軽減され、平等な分割ができるため、トラブルを防げます。特に遠方の物件は管理が難しく、早めの売却が推奨されます。また、所有権移転登記は必ず行い、相続登記は2024年から義務化されるため、注意が必要です。